【旧道フォトグラフス】・旧道に所縁のある一枚のカットを巡る小さな旅。

Vol、10   小田西沼 (島牧村 狩場山道)         写真 文 ・ 久保 ヒデキ

 

 

小田西沼 (島牧村 狩場山道)

 

 「北海道三大秘湖”」いう言葉がある。支笏湖に寄り添うように並ぶオコタンペ湖、然別湖そばの山陰に潜む東雲湖、雌阿寒岳ふもとのオンネトー。実は、えりも町山中にあるハート型をした豊似湖や、北見市郊外のチミケップ湖も含まれるらしい。それぞれに”三大秘湖”と呼ばれるにふさわしい独特の雰囲気を持った湖だったが、少々、有名になりすぎた印象がぬぐえないのは私だけではないだろう。そろそろ世代代わりしてもよいのではないかと、小田西沼(オタニシ沼)を訪れ、感じた。

(注・平成一六年執筆、写真は平成一五年当時)

 北海道旧道保存会のメンバーには、”B級湖沼”を提唱しているその道の専門の方がいる。その基準の一例を挙げるなら、「A級グルメに対するB級グルメ、みたいなもの。支笏湖や阿寒湖がA級湖沼とするならば、有名でなく、ちっちゃくて、目立たなくて、道もなく、でも行ってみたいという湖沼」であるという。氏がまとめた『北海道B級湖沼500(コンターサークル会誌二〇〇三年版付録 非売品)』によれば、海抜〇メートルのリヤウシ湖(網走)から、標高二一〇〇メートルほどの愛山溪山中に存在する無名の湖まで、氏の基準に照らし選ばれた少なくとも五〇〇の「B級湖沼」がこの北海道には存在することになる。つまり、五〇〇の中には先に挙げた三大秘湖も含まれているものの、その影には秘湖予備軍がたくさん控えているというわけだ。

 

 この小田西沼は、地形図(原歌、狩場山)で見るとわかるとおりオコツナイ岳から北西に伸びる大断崖部分の直下にある、小さな沼である。現在の地形図ではそこへ通じる道は記されていないが、かつてはオコツナイ岳の裾野を通り茂津多を越えて須築へ下りる狩場山道がそばを通っていた。今なお痕跡を残す山道の、その途中から枯れ沢に入り、ごつごつした大岩を回り込み、ブドウツルの枯れ木に足をとられながら登る。背の低いエゾイヌガヤの群落を越えるとはるか下方、紅葉に染まる木々の間に、その沼は緑の水をたたえながら佇んでいた。登り始めてから数時間後のことである。

 山道ができた安政四年以来、見通しも利かず、四方を山に囲まれたこの沼を直接知る者はそれほど多くはないはず。まさしく秘湖である。苦労して辿りついたこの沼は、私の基準の中では間違いなく新「北海道三大秘湖(沼)」のひとつとして記憶に残されることになるだろう。

 

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