定山渓鉄道資料集
【定山渓鉄道沿線百話 その六五
「ポートレート×定鉄沿線 定山渓車庫前バス停」】
豊平停車場の忘れ形見。ホーム土台に使用されていた札幌軟石を利用して建てられたバス停待合所。
平成一七年、石切山停車場駅舎と並んで現存遺構としては最大だった豊平停車場駅舎と棟続きの本社ビルが、高層集合住宅新築のために相次いで解体されました。市電豊平線が横付けし、最盛期は多くの観光客で賑わったという駅前広場の風情も消えて久しく、唯一、定山渓鉄道の証として名残をとどめていた駅ホームは工事開始からわずか数か月で消滅してしまいました。
そのホームの土台として永年使われていた札幌軟石のブロックを一部利用して、定山渓車庫前のバス停待合所として生まれ変わっています。
外装に札幌軟石ブロックが積み上げられた建物の中央部に大きくアーチ状の開口部が設けられ、その上部には往年の定山渓鉄道株式会社時代の社章が描かれています。バス停としては広めの室内は定山渓駅舎をイメージさせたぬくもりのある木目張りの壁で、やはり当時の待合室に置かれていたものと近いイメージの長手のベンチが二脚並べて置かれています。竣工直後は定山渓鉄道の古い写真のコピーなどが展示されていましたが、上質紙画質や気遣いの足りない展示方法などには甚だ疑問を感じておりました(苦笑)。常時開放しているバス停待合という性格上、仕方がない一面はあろうかと思いますが…
定山渓鉄道が廃止されてすでに半世紀近くが過ぎ、その遺構も次々と失われていきました。現在、現存する駅舎は石山振興会館として利用されている旧石切山停車場駅舎のみ。線路遺構では鱒の沢川橋梁跡のレンガ積み橋台と一の沢橋梁と送水管橋の橋台群、わずか数本のキロポストだけとなりました。公園と駐車場に利用されている定山渓停車場構内の片隅に、やはり定山渓駅舎のホーム土台の札幌軟石を積み上げたモニュメントはありますが、おそらくその存在に気付く人は非常に少ないのではないかと思われます。そもそも人目に付きづらい場所もさることながら、無造作に積み上げただけのその設置の手段もあまりに寂しいものがあります。
その意味でこのバス停待合所は、往時を知る利用者にとっても身近に感じられる遺構として歓迎されているのではないかと思われます。欲を言えば、乗降客も多い温泉街中心部にある定山渓湯の町バス停に設けることができたら、より多くの人目にも触れて話題性も上がっていたのではないでしょうか。
※カットは上段左がバス停上部に描かれた社章、左下は解体直前の豊平停車場ホーム。下段中がバス停室内。
※内容はあくまでも現時点までの研究成果による執筆者の主観です。新情報などで不定期に内容を更新する場合があります。予めご了承ください。