定山渓鉄道資料集

【定山渓鉄道沿線百話 その五九

       「キハ7000とキハ7500」】

 

 昭和六年の東札幌~苗穂間の電化延長により札幌市街地へと近づいた定鉄電車でしたが、おそらくこの当時から札幌駅への直接乗り入れという理想像は描いていたと思います。北海道鉄道は豊平川鉄橋付近より国鉄線に併走し苗穂を起終点とする単線でした。

苗穂から札幌駅まではわずか2kmあまりの距離でしたが、専用線の延長または国鉄線への架線増設とも困難だったと想像され、戦後となっても札幌駅乗り入れは実現しませんでした。

 もっともその当時より馬車鉄道が苗穂駅前まで通じており、昭和一一年には市電苗穂線が営業開始されたことから、これを利用し苗穂から乗り換える温泉行楽客も少なくなかったものと思われます。もっとも、同様に豊平停車場までもそれ以前から馬車や後の市電延長などで利用客も多く、定山渓鉄道の中心駅はやはり豊平停車場であったことは事実です。

さて、国鉄札幌駅までの電化延長が実現しなかった替わりに、気動車による札幌乗り入れが実現しました。昭和三二年六月一二日のことでした。

 さかのぼると、昭和二〇年代末期には東札幌~苗穂間の架線撤去交渉が定山渓鉄道との間で行われていたものと思われます。戦後、国鉄の動力近代化計画に沿って函館本線の電化計画が具体化し、北海道特有の理由で国鉄は交流2万ボルトでの電化を計画。既存の定山渓鉄道は直流架となるため併存に難色を示し、これが架線撤去要請の理由だったのかもしれません。そして、定山渓鉄道側としては架線の撤去に応じるかわりに自社車両による札幌駅乗り入れを要望、そしてこの日の実現につながったわけです。

 この乗り入れに際しては、当初、電車車両を自社のディーゼル機関車(この時点でDD450導入計画はあったはず)で牽引して乗り入れる、というアイデアのあり、実際に試験が行われた、という話もありました。しかし、機回しの手間や所要時間の増大といったこともあり、結果としては新型気動車を導入する、という結論となったのです。

 

 念願の札幌駅乗り入れに際して導入された、定山渓鉄道初の気動車は合計四両。そのうち最初に導入された三両は、客室ドアを両端に置いて四人掛けの全席クロスシートを備え、キハ7000型と呼ばれました。残りの一両は翌年に登場したキハ7500型で、定員と座席数は変わらないものの外観上に違いがあり、客室ドアが内側に寄せて配置されました。これは、必要に応じて運転席と客室ドアとの間を荷物室として利用するためでした。

 それまでの長い間、沿線の商店主や旅館、ホテルなどに親しまれていた『ニフ50』『ニフ60』といった専用荷物車が引退するにあたって、客室前方に貨物エリアを設けたクハニ501と同様の用途を持たせたわけです。豊平停車場と比べ、新聞や雑誌書籍、日用雑貨などの札幌駅からの積み込みの方が都合が良かったものと思われます。

 キハ7000型、7500型式ともドア配置以外は共通で、前面はモ1200型以降の新造電車に準じた二枚窓でマルーンに白帯を巻き、当時の国鉄型カラーの中にあって目立つ存在でした。

 乗り入れの運用としては少々複雑で、札幌駅と東札幌駅との間は千歳線苫小牧方面の普通列車に併結、あるいは単独で東札幌停車場まで走行、豊平駅までは自走し、そのあとは電車の後ろに連結して牽引されるという方法がとられていました。定鉄の元運転士だった方から伺った話では、「国鉄線内では自走の場合など例外はあっても、運転は国鉄の乗務員が担当した。国鉄の気動車は貫通扉があって運転席が狭かったが定鉄の新型気動車は貫通扉がなく広々としていたから、国鉄の運転士にはよくうらやましがられた」そうです。当然、前方視界も良かったので評判が良かったのではないでしょうか。

 

 しかしながら、この札幌駅乗り入れの列車も実現からわずか数年のうちに営業の赤字転落とともに、本数が減っていきます。昭和三九年には一一往復だったのが昭和四一年には一〇往復、翌四二年には九往復となり、とうとう全線廃止に先立った昭和四四年九月に札幌駅乗り入れが消えてしまいます。気動車四両は線路撤去の任を経ながらもその後の引き取り手もなく、竣工から一一年ほどで全車廃車を迎えてしまいました。

 

〈キハ7000 キハ7500 共通データ〉

キハ7001~7003、キハ7501

機関…DMH-17C型ディーゼル機関

          180PS/1500RPM 1基

車体寸法…20000×2840×3790

自重…33トン

旅客定員…102人(座席80 立席22)

 

※カットはキハ7000およびキハ7500の車両竣工図表。豊平川鉄橋を渡る単行のキハ7002。札幌駅で出発待機中のキハ7501。

 

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